理念
鴨川が生んだ、稀代の彫物大工・伊八に学ぶ

1752年、彫物大工・武志伊八郎信由は安房国長狭郡打墨(あわのくにながさごおりうっつみ)村、現在の鴨川市に生まれた。

彫物大工とは神社仏閣の向拝(ごはい)や欄間(らんま)などに装飾彫刻を彫る匠。
武志家は代々伊八を名乗り、五代、昭和29年まで彫工という家業を在続させた。

初代伊八は73年の生涯に、安房を中心に上総、江戸へと50を越える彫物を遺している。
作品は江戸中央の様式にとらわれることなく、自由でダイナミック、ユーモアのセンスもあり、江戸期・長狭郡の「鴨川人」の気質、美意識をよく反映している。
中でも波の表現は抜群で「関東に行ったら波を彫るな」と言わしめたほど。
そんな伊八の職人気質に学び、まちづくりを進めていこうとスタートしたのが「伊八プロジェクト」である。

初代 武志伊八郎信由
本名 武石伊八
1752年(文政7年)生まれ。73歳歿。

二代 武志伊八郎信常
本名 武石万右衛門
1786年(天明6年)生まれ。
父信由のもとで修行し、初代亡き後38歳で武志伊八郎を継ぎ、藻原寺や清澄寺などに作品を残している。
1852年(嘉永5年)年、66才で歿。

三代 武志伊八郎信美(信秘)
本名 武石伊八郎
1816年(文化13年)生まれ。1889年(明治22年)、73歳で没。
民家の欄間、置物などにも作品を残している。

四代 武志伊八郎信明
本名 高石仙蔵
1862年(文久2年)生まれ。
東京柴又の帝釈天の作品に半生を注ぎこんだとえられ、制作中に病に倒れ、1908年(明治41年)、46歳で没。

五代 武志伊八郎信月 本名 高石武一郎
1890年(明治23年)生まれ。父とともに柴又、帝釈天での制作に従事。
1954年(昭和29)、没。


230年続いた伊八老舗の哲学

伝統を守りながら、時代時代を生きる人々の生活様式の必要に答え続けること。
社会や地域や人々が求めることに対応していく企業理念、企業戦略(「プロダクトアウト」でなく「マーケットイン」)、必要とする人々の希望に沿う商品の開発研究、ほしいと願う商品の研究。
このすべての根底にはホスピタリティの心から生まれる、人に対する優しさの意識。
真新しいことばが並んでいるが、伊八はすでにこれらの要素をもち得ていた。

私たち鴨川市民のDNAには伊八の心に息づいたホスピタリティ精神や郷土への愛が刻まれているはずである。


伊八気質でまちづくり

生きる力、明日への活力。
伊八は希望をもち奇跡を起こす力を人々に与え続けた。
今日を生きる喜びとやさしさ、力強いエネルギー、元気を呼び起こす力を人々へ与え続けていく一人の彫工として作品を彫りつづけた。

その想いはいまでも私たち鴨川市民の心の中に生きつづけている。

私たち鴨川市民は多くの人々に希望と元気と夢を与える、これらの作品を広く人々に伝えつづけていくことを一つの使命として、いまを生きている。
いまを生きる意味、生きている証として、伊八の心を誇りに思い、伝えつづける市民でありたい。

「伊八のホスピタリティ、アイデンティティ」を鴨川のアイデンティティとして、市民一人一人が心の底から相手の立場に立った「おもてなし」のできる、すばらしいまちづくりを目指していくことを趣旨として、伊八プロジェクトは発足した。

鴨川市商工会を中心として取り組んでいる伊八プロジェクトには市内、さまざまな分野から60名を超えるメンバーがまちづくり委員として活動している。
伊八の作品を単に仰ぎ見るだけでなく、伊八の職人気質に注目し、その精神性を未来のまちおこしに活かしていこうと、平成20年度より行政、城西国際大学などと連携して進めてきた研究成果を基として、本年から本格始動した。


3つの目的

一、伊八の足跡を振り返り、ものづくり伊八老舗の精神を学ぶ。
一、長く通ずる特産品ブランドの創造など、地域の活性化を図る。
一、波の伊八作品や伝統文化を保護、保全を目的とした基金の設立を活用し、次代に継承していく。

伊八は自らの仕事において一切妥協することはなかった。
魂の込められた作品は当時の人々だけではなく、現代に生きる人々の心をも揺り動かし、希望を与えている。 そんな伊八の心を鴨川の宝として、伊八プロジェクトは歩み始めている。


一般社団法人「波の伊八鴨川まちづくり塾」の設立

未来に向けた活動の基として、一般社団法人「波の伊八鴨川まちづくり塾」が設立された。

本塾では伊八作品の保護・保全のための基金を築いていくほか、先人たちが大切に守り受け継いできた地域の伝統文化を次代に生きる人々に確実に伝えていくこと。
さらに先人たちの知恵に学び、より魅力的な鴨川のまちづくりを推進していくことを活動目標としている。

現在、広く市民に参加を呼びかけている。
力をあわせ、心を一つにして、まちづくりをともに元気に推進していただきたい。